北海道大学シラバス
科目名[英文名]
一般教育演習(フレッシュマンセミナー)  Freshman Seminar
講義題目
ミクロの世界を探る人体のしくみと病気(論文指導) 
責任教員[ローマ字表記](所属)
髙岡 晃教[Akinori TAKAOKA](遺伝子病制御研究所) 
担当教員[ローマ字表記](所属)
髙岡 晃教[Akinori TAKAOKA](遺伝子病制御研究所) 
科目種別 全学教育科目(一般教育演習)  他学部履修等の可否  
開講年度   2009  開講学期 1学期  時間割番号 000213 
授業形態 演習  単位数 2  対象年次 1 
対象学科・クラス 基礎1-52組  補足事項  
 
キーワード検索
ヒト、生命、感染症、癌、免疫学、分子生物学、生理学、医学、生体防御、細胞内シグナル伝達、病気、治療原理、遺伝子異常
授業の目標
 本講は、これまで学ぶ機会のなかった様々な角度から『生命体』について、とくに「ヒト(人)」に焦点を当て、人体のマクロからミクロの世界まで幅広く紹介するものである。文系や理系などの枠を取り除いて、多くのバックグラウンドの方に興味をもって、理解できるように授業を展開したいと考えている。またこれまでにないユニークな内容を予定している。すなわち、講義のみならず、その知識をより深めるための実験や標本館の見学を盛り込み、さらに実験結果のレポート作製の作業をもとに、論文の書き方やまとめ方、資料となる情報の収集方法の基礎を学んでもらう。また実験結果の発表会も行い、みなさんでディスカッションを行うなど、プレゼンテーションや質疑応答の初歩を実体験してもらう。このように本講で学んだことが、いずれも、これから先、みなさんがいかなる道を選択したとしても、それぞれの専門化した領域での学習においてできるだけ役立つように仕上げたいと考えている。
 授業内容の概要:
 ヒトは多くの臓器や器官から成り、これらの臓器や器官は多数の細胞から構成され、さらに細胞は様々な分子の集合体といえる。本講は、ヒト生命体を主に生物学的局面において分子レベルまで掘り下げ、体内の『ミクロの世界』を学んでみようというものである。また、臓器や器官、細胞、分子はただ単純に集まって存在しているのではない。これらの視点のスケールは異なるものの、それぞれのレベルにおいてお互い、時間的・空間的にうまくコミュニケーションやバランスをとっている。このような有機的な集合が保持されることで、体内に様々な世界がつくり出され、全体としてヒト生命体が存在していると考えられる。我々ヒトが生きていけるのもこのような体内の世界が巧妙に動いているからである。一方で、このような世界が崩れてしまうと、体調が悪くなり、場合によっては生命が存続できない状況に陥る。これが病気であり、死である。本講においては体内の『ミクロの世界』における構成分子間のつながり、とくに細胞内シグナル系のネットワークの例についても解説する。一方で体内の世界の「失調」という観点から、とくにヒトの代表的な病気である感染症や癌に着目して、なぜ風邪をひくのか?どうして癌になるにか?--- 最新の研究を紹介しながら生命システムの病的状態についても探ってみる。さらにそのような病気のメカニズムに基づいた現在の治療原理についてもその一端を概説する。最後にこのような生物学的局面とは別の重要な局面であるヒト生命体の尊さについても受講者とともに考える機会もつくりたい。
 このように、広い範囲に渡ってできる限り実践的に役立つ、質の高い講義を展開することを目指している。
到達目標
 到達目標は2つ掲げている。1つは、この講義を通して、受講者のみなさんに今まで見たことのない『新しい世界』を1つでも発見してもらいたい。もう1つは、この講義をこれからの実践に役立つ基礎をつくる土台にしていただきたい。その意味において、できる限り受講者の皆さんそれぞれに合った形で学習をサポートしたいと考えている。
 本講の特徴は、単に机上での知識の取得のみならず、通常の講義では取り入れることが少ない見学や実習、発表会などの実践的な内容をできる限り取り入れていることである。受講者の皆さんに自ら実践して学んでもらう機会を設け、講義の内容を体感することで、より受講者の理解を深める、身につく授業を展開したいと考えている。このような講義、実習、見学を通して、少しでも体内の『ミクロの世界』の不思議に触れていただき、如何に生体は自己というものを保持するために巧妙なシステムを備えているのか学んでもらいたい。本講の最終目的は、このように「生命」を分子レベルで捉えるということを通し、様々なバックグラウンドをもった受講者に新しい視点から創造する力を修得してもらうための機会を提供することである。是非、理系や文系の枠をこえた受講者の参加を期待したい。
授業計画
ミクロの世界を知るにはマクロの世界を知る必要がある。生命体について大きくマクロとミクロの2つの視点から、講義、実習、見学など様々な要素をうまく組み入れて、できる限り体感できる講義計画を以下のように考えている。
 まずヒトのからだはどのようなつくりになっているのか?臓器や器官について解剖学的・生理学的な視点からその構造や機能の概要を学んでもらう。実習では、実際に臓器や器官がどのような形態で体内に配置されているのかマウスの解剖を通して観察することを計画している。さらに受講者同士で、聴診器を使って心音を実際に聴診したり、また、血圧や脈の測定、様々な神経の反射の検査を行う実習も予定している。
 ミクロの世界の探索においては、とくに「生体防御システム」に着目して講義を展開する。すなわち、ヒトやマウスは、ウイルスや細菌などの病原微生物による侵入に対し、これらを排除するための巧妙な防御システムを備えていることが知られている。さらに癌細胞の出現に対しても腫瘍免疫のシステムが存在している。これらの分子メカニズムについて、サイトカインの細胞内シグナル伝達機構などを取り上げて解説していくことにより基礎免疫学や分子生物学の基礎に触れてもらうことを計画している。一方で、1つの遺伝子の異常がヒトに病気を引き起こすことが知られている。遺伝子の異常と免疫系の異常がどのように関連しているのか説明することにより、分子レベルで感染症、さらにはがんといったヒトの病気についての基本を理解してもらうとともに、その治療アプローチについても触れる。これに対応する実習としては、実際にヌードマウスやscidマウスなど複数の免疫不全マウスを用いて、血清中の抗体タンパク質を検出することなどを行い、免疫の異常について学んでもらう。このことは同時に、免疫学的あるいは生化学的実験、ひいては基礎研究の一端を体験してもらうことにもつながると考えている。
 下記に講義内容の要点を記す。

【1】臓器および器官レベルで捉えた「マクロの世界」の探索
 (1)臓器の解剖学的基礎知識
 (2)臓器の機能や役割について
 (3)癌とはどういうものか?
 (4)感染症 --- 人類と微生物との攻防の歴史

【2】細胞および分子レベルで捉えた「ミクロの世界」の探索
 (1)生体防御(免疫)システムを構成する細胞の種類とその役割
 (2)免疫系を制御する液性因子(サイトカインや補体など)の役割とそのシグナル伝達系
 (3)ヒトの病気(免疫不全症、癌)を引き起こす遺伝子異常とその分子メカニズム
 (4)疾患病態に基づいた治療原理(抗生物質や抗がん剤、放射線治療、遺伝子治療などの例)

【3】実習および見学など
 ヒトの臓器の働きを聴診器や血圧計などを用いて実際に観察する実習を行う予定である。また、正常マウスをはじめ、免疫不全マウスを用いた解剖や免疫学的・生化学的実験も計画している。後者の実習についてはその結果をグループ毎に報告し、質疑応答するミニ発表会を予定している。さらに論文構成や書き方の基本にも触れることや、論文作成に必要な関連文献などの情報探索や収集の方法について学ぶ機会も予定している。後者については附属図書館にもご協力いただき、通常行われる「情報検索実習」とは異なった形でより本講に即した内容の実習を計画している。本講の最後には、医学関連の資料館(札幌医科大学付属標本館)を訪問し、これまで講義で学んだ知識を深めるため、実際にヒトの解剖標本をはじめ、癌や感染症などヒトの疾患を観察・学習する。
準備学習(予習・復習)等の内容と分量
 予習・復習についてはとくに義務的なものを設定せず、かつ基本的には必要としないように講義を進めたい。講義の時間に集中し参加してもらうことが第一と考えている。もちろん、これら準備学習を希望する受講者については大いにサポートしたいと考えている。
成績評価の基準と方法
 可能な限り、 インタラクティブな講義を展開し、基本的には、履修状況を含めた講義や実習に対する積極的な姿勢を評価の対象としたい。試験による評価は行わない予定であり、成績評価の対象の1つとしてのレポートも原則1回だけとし、できるだけ1つ1つの講義に集中して楽しんでもらうことができるように考えている。
テキスト・教科書
 教科書やテキストは特定しない。必要に応じて資料を準備するので、これに従って進めていく。時には最新の関連論文を用いるなど広い分野からの資料を元に講義用のプリントを作成し、講義を展開していくことを計画している。
講義指定図書
 前項目にも記したように偏らずに広い範囲で多様な教科書や資料を提供したいため、講義指定図書は敢えて設定しない予定である。
参照ホームページ
 講義内容と関連する情報や資料を掲載していることから、是非、以下のホームページを参考にして頂きたい。http://www.igm.hokudai.ac.jp/sci/

備考
問い合わせは、気軽に下記までご連絡ください。
電話:011-706-5020、内線:5020
E-mail: takaoka@igm.hokudai.ac.jp
(遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野 髙岡晃教)
更新日時
2009/01/30 11:33:44